「慈光ー愛のまなざし」について
原画：エッチング+手彩によって制作(2023年)

学生時代の一人旅で出会った、斑鳩にある半跏思惟像。
静かにほほ笑むその姿から醸し出される、圧倒的な慈愛の光は、私の心を瞬く間に捉え、離さなかった。

以後、数十年に渡り、一方的に恋焦がれることとなったのだが、 この度、思い切って、その御姿を描かせていただくことにした。
それは私にとっても挑戦で、果たしてその奥にある、光明遍満たる世界の片鱗を、写し取ることが出来るのだろうか、と。
今までも幾度か試みたものの、納得のいくものにはならなかった。

けれども、このたび、初めて、エッチングの手法をもって、銅板に刻み入れることにした。
一筆一筆、祈りを込めて彫り進めた。
そして、出来上がった作品の上に、そうっと肉付けするように、やはり、祈りながら、色を微細に重ねていった。

すると、やっと自分の中で許可が下りた。
と同時に、涙が一筋、スーッと頬を伝った。

しばらく無言のまま、絵を見つめていた。
絵の中の観音様は、静かなほほ笑みを浮かべている。
もしかしたら、観音様の御霊が降りてきてく出さったのかもしれない…と思った。
そう感じた途端、また涙が頬を伝った。
ただただ、有難かった。静かに首を垂れて、祈った・・・。

さて、モデルとなったこの像が収められているのは、聖徳太子ゆかりの寺でもある中宮寺だ。
御本尊であるこの仏像の正式名は、国宝―菩薩半跏像（伝如意輪観音）という。
菩薩半跏像は、広隆寺の弥勒菩薩と同時に、飛鳥時代を代表する最高傑作のひとつである。
と同時に、世界においても重要な意味を持つ国宝である。
というのは、本像が持つ神秘的な微笑みは、古典的微笑（アルカイック・スマイル）の典型であり、 エジプトのスフィンクスや、ダ・ヴィンチのモナリザと並ぶ、 世界三大微笑み像の一つとして、世界的な知名度を持つ仏像でもあるからだ。

この微笑みが、世界を魅了していると同時に、いにしえから今に至る多くの人々の心を、 どれだけ救い、癒し、導いてきたのだろうと思うと、胸が熱くなる。
そしてこれからも、人々の心の奥に寄り添いながら、圧倒的なる慈悲と慈愛の光を放ちながら、 未来永劫へと至るのであろうと思う。

そんな尊い仏像を、このたび描かせていただき光栄に思う。
作品タイトルは、「慈光―愛のまなざし」と付けた。

いついかなるときも、あまねく届く慈しみの光と共に、
すべてを包み込む愛のまなざしにいだかれて、 あなたと世界を照らしてくださいますように…
という祈りが名前の中に込められている。

どうか、御仏の心のままに、本作品が何らかのお役に立つことが出来たら、作者として大変嬉しく思う。

合掌　はせくらみゆき

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